外国では時として驚かされることがある。自国の常識が通じないことが多いからだ。もちろん、どの国にも良い点と悪い点は存在する。それを楽しむのがその国での滞在を思い出深いものにする秘訣なのだ。この滞在でもいろんな人に出会った。


1. 愛すべき計算できないアメリカ人

アメリカの薬局はとても便利だ。最近は日本の薬局でも化粧品など薬以外の物も売っているが、アメリカはそれ以上である。あえて言うと、高級ブランド化粧品のないショッピングモール、豊富な薬ラインナップと薬剤師がいるスーパーといった感じだ。薬、生活用品、化粧品、菓子、文房具、雑誌、冷凍食品、カメラ用品、宝くじ…etc etc。最近では超新鮮なサラダまで売っている。以前、私はミシンを薬局で買ったことがある。アメリカらしい物がそろっているので私は土産も薬局で買うことが多い。また、適当に時間が過ごせるため、必ず遅刻をしてくる友達との待ち合わせなどに利用価値大の場所である。

仕事帰りに街をブラブラし閉店間際の薬局に立ち寄った。特に用があった訳ではないが、時間があるうちに土産を買おうと思ったのだ。とりあえず店内を物色し、日本で売っていない物をいくつか選びレジに持って行った。合計14ドルの買い物だったが、生憎、財布には100ドル札しか入っていなかった。「100ドルしかないからまた来るよ」と言ったが、店員が「No probs!(気にしなくていいよ!)」とにっこり笑っている。ここはアメリカ、閉店間際のレジを締めた店で100ドルで安い買い物をしたら店員に文句を言われた挙げ句つまみ出されることもある。しかし、この店員は気前が良い。「レジは閉まってるから俺が計算して後で店長に報告するよ。ここ辺りは危ない。暗くなる前に早く帰った方が良いよ。」– そうだボストンのこの辺りは今でもヤク中のジャンキーがたむろするギャングの巣のような地域だ。掃き溜めに鶴の様な店員だ、などと思っている間、店員は紙切れに数式を書き、必死に数字と格闘している。能天気な店員は「ボストンには仕事で来たのかい?俺は大学に通ってるんだ」としゃべり続けている。税金を足しても15ドルちょっとの買い物だ。お釣りは84ドル相当だ。数字に弱い私でも暗算で答がでる。しかし、この店員は5分程かけても答が出ない。やがて「お待たせ!これが君のおつりだよ」と何枚かの札とコインを手渡された。とりあえず、財布に押し込み足早に店を出た。

夕食後、近くのバーに飲みに行くことにした。このような場合、私は必要金額と身分証明書と本をポケットに押し込み身軽で行くことが多いのだが、閉店間際になり清算しようと財布を開けて驚いた。189ドル入っていたのだ。夕方までは100ドル札が1枚入っていただけだったのに倍近くに増えている。何かがおかしい。色々思い出してみたが、最後に買い物をしたのはあの薬局だ。84ドル相当のおつりのはずだった。きっと、あの店員が50ドル札と間違えて100ドル札を渡してしまったのだろう。しかし、それなら134ドルのはずだ。そして店員がくれた手書きのレシートを見てみた。100−14=89。単なる計算ミスか。そして、税金を足すのを忘れている。間違いでこっちの取り分が少なくなるのは頭に来るが、この場合この店の方が損をしている。しかも100ドル札も渡しているのだ。

この不思議なレシートのおかげで謎が解けたような気がしたが、その反面新たな謎が深まった。奴はどうやって大学入試に受かったのだろう。きっとこの不思議の国ではこれが普通なんだと納得しておくことにしよう。
そして私は二度とあの薬局を訪れることはないだろう…