朝6時起床。珍しく素晴らしい目覚めだ。眠りに戻ることもなく、シャワーを浴び、リビングのソファーで寝てる友達を叩き起こした。
今日のメインイベントは近隣の町セーラムへのドライブだ。これまでに何度か訪れようとしたことがあるのだが、その度に行けずじまいだったセーラムへ、いざ行かん!
魔女狩りの町、セーラム。いまやハロウィーンの時期だけ盛り上がる観光客相手の町として有名だが、過去には凄惨な魔女狩りが行われたアメリカの黒歴史の舞台でもある。メインストリートには、魔女グッズやコスチュームを売るショップ、ぼったくり占い師の館が建ち並ぶ。この町を舞台にした魔女やハロウィーン映画も多数ある。後で知ったのだが、魔女狩りが行われたのはこの海辺の町ではなく、この町の北にあるセーラム村(現ダンヴァース)という同名の違う町だったらしい。違う町の歴史に乗っかる便乗商売上手な町が今のセーラムなのだ。いずれにせよ、燦燦と眩しい太陽が照りつける夏に訪れても、暑いだけで、なんの雰囲気も味わえないのは分かっているが、こうも何度も行き損ねるとかえって行きたくなるものだ。
日本と違い、アメリカでハロウィーンが盛り上がるのは10月31日のみで、平日でもその日だけパーティをするのが普通なのだ。2年もハロウィーン タウンの近くに過ごしながら、セーラムに行き損ねたのには理由がある。当時は未成年でアルコールの出るセーラムのパーティに入場できなかったのと、セーラムに行く交通手段が乏しく、高校の寮の門限を破ると厳しい罰則が科せられたから。そして、何より2年ともハロウィンが平日だったのだ。その日は、厳しい学校もお祭りムードで生徒も教師もコスチュームで登校しても良い日だった。学校の中庭やカフェテリアでイベントや出店が行われ、特別メニューが振舞われた。夜になると肝試しツアーのようなゲームもあり、わざわざ街に繰り出さなくても十分楽しめたのだ。
最後にセーラムに行こうとボストンから車を走らせたのは数年前。アンドーバーの高校で公演をしていた友達を迎えに行くついでに立ち寄ろうと高速を飛ばした。予定より遥かに時間をオーバーしたどり着いたセーラム。町中、どこを走っても魔女らしきものが出てこない。みやげ物屋も見当たらない。どう見ても、ぽつぽつと家が建つ林の中にある片田舎の住宅地といった感じだ。何もない田舎道を走り回り、ガス欠に。立ち寄ったガソリンスタンドでバイトの高校生に聞くと、「セーラムはセーラムでもここはニューハンプシャーのセーラムだ」。私の行きたかったのはマサチューセッツのセーラムだったはずだ。どこかで高速を乗り間違えたらしい。
今回は約20分で魔女のセーラムにたどり着いた。楽しいドライブだった。予想通り、魔女グッズショップ、何軒かのレストラン、博物館があるだけの小さな町だった。友達に頼まれた魔女の媚薬を探してみたが見つからず。観光にもショップ巡りにもあまり興味がない私たちは足早に町を見て回り、近くの海岸に座って町の老舗サンドイッチ屋で買ったロブスターサンドを食べた。「本物の魔女に会いたいよねー」なんて話しながら。
約1時間の滞在で唯一買ったものはギフトショップの冷蔵庫でキンキンに冷えた『魔女の水』というラベルのついたミネラルウォーターだけだった。魔力が宿ることを期待して味わって飲むことにしよう。