ある時は観葉植物の枝にぶらさがり、またある時は本棚にちょこんと腰掛け、飄々とした顔のかわいいやつ、カイ・ボイスンのモンキー。名前は<ボノボ>。この木製のおもちゃのボノボが我が家にやってきたのは私が3歳のころだった。
私は祖父母にとってひとり孫で、無条件で溢れんばかりの愛を注いでくれた。おばあちゃん子だった私は、片時も祖母のそばから離れようとしなかった。祖母は私のアイドルで、後ろにくっついて歩くだけでワクワクしたものだ。ある時、祖母は仕事で数週間もデンマークに出向くことになり、私は長く寂しい日々を送ることになった。子供のころは時間がたつのが遅く感じ、祖母が帰国するまでの時間はまるで永遠のように思えた。
ある日、スーツケースにおもちゃをいっぱい詰め込んで祖母が帰ってきた。その中のひとつがボノボだったのだ。私の家族はどういう訳か子供時代からキャラクター物のおもちゃを与えてくれず、友達の会話についていけない感は否めなかったが、それでも、レアなおもちゃに溢れた部屋私の夢の国だった。その中にボノボが仲間入りしたのだ。
どこにでも引っ掛けられる手足のモンキーは、もともと子供家具用のフックにと作られたそうで、我が家でもしばらくの間、帽子掛けとして使われていた。部屋にはぬいぐるみのような柔らかいおもちゃがたくさん並べられていたが、それらとは異質のこの硬い木製の素朴で何とも愛嬌のあるボノボがお気に入りのおもちゃになった。
あれから年月が過ぎ、大好きだった祖母はなくなり、私も大人になったが、今でもボノボは我が家のアクセントとして癒しを提供し続けてくれている。