ボストンのファニエル・ホール・マーケットプレイスに”Anthem(アンセム)”というバーがある。会社から徒歩3分という好立地のお気に入りのバーだ。仕事帰りに同僚と立ち寄ったり、アパートからも近く、日課のようにこのバーに出向く。
値段が日本並みに高いという事だけが問題だが、食事カクテル、客筋、音楽、店員、どれも合格だ。いい雰囲気のバーだ。このバーを訪れると、東京のお気に入りのバーを思い出す。デジャブのごとく。
昨夜9時頃、一人でこのバーに立ち寄った。カウンターに座り、好きなカクテルを頼み、本を読み、バーテンダーと話をした。何杯か飲んだ後、もう1杯頼もうとバーテンダーに頼んだ。「あと5分で閉店だから今日はもうだめだよ」このバーは夜10時に閉店なのか? いやいや、看板には午前1時までと書いてある。「今日は客も少ないからもう閉めるんだ。また明日来てくれ」とガードマンらしき男につまみ出された。
驚きだ。日本から来た私にとっては信じがたい事実だ。日本では、バーは大抵朝の5時過ぎまで開いている。早く行ってもつまらない。だいたいバーには11時過ぎに出かけるのが普通だと思っていた。アメリカは、大都市の一部のバーやクラブ以外は大体2時頃閉店する。朝まで開いていても、ドリンク類のラストオーダーは1時過ぎの店が多い。今日、1つ学んだ。「飲みたければ、早く行け」
もう1つ、日本の文化で好きなところがある。それは、日本人はアルコールに対してオープンであるということだ。バーやクラブに入る時やアルコールを買うとき、身分証明書を見せなくても良いし、別に酒屋に行かなくてもスーパーや自動販売機で気軽に買える。飲酒年齢は20歳だが、誰も気にせず飲んでいる。アメリカでクラブに行く時は、必ずと言っていいほど身分証明書を見せなければいけない。たいていの場合は、運転免許書かパスポートを見せる。そんなに若く見えるのか?それとも単にからからかわれているだけだろうか? できるならポケットにお金を突っ込んで手ぶらで出かけたいのに、このつまらない規則のせいでバッグを持ち歩かなければいけない。もし、パスポートをなくしたら責任を取ってくれるのだろうか? 飲酒の件で、過敏になりすぎる以前に、もっと神経質にならなければいけないことが山のようにあるだろう。この国には...
この国にも良い点がある。それは、喫煙者が少ないということだ。タバコをすわない私にとってはうれしいことだ。以前、試しにすってみたが、楽しみ方が分からなかった。日本は、偉大な喫煙国家だ。運悪く日本に生まれてしまった。家族にも友達にも喫煙者が多い。何が嫌かというと、服に煙の匂いがしみつくことだ。バーやクラブにいくのは大好きだが、必ずと言っていいほど臭くなって帰らなければいけない。特に冬は、なかなかすぐに洗濯できないコートやジャケットに匂いがしみつくと厄介だ。
そういう場に出向くのをやめるか、臭くなっても良いからそういう場に行き続けるか、どちらか選べと言われたら、やはり後者を選ぶだろうが、全身タバコ臭くなって帰るのはごめんだ。だが、アメリカのバーでは、その心配がない。多分、喫煙者は多からずいるのだろうが、きっちり分煙しているおかげで、煙を感じることはまずない。アメリカでこのノンスモーキング事情に慣れてしまったら、日本のタバコ天国に戻りたくなくなるのだ。
文化や国によって重要視する点が大きく異なる。何がマジョリティでマイノリティなんて大きなことを言っても、アルコールとタバコを話題に取り上げる時点で、「大きなことを言うな」と叱咤されそうだが、私は体に悪い物(酒)が好きなのは曲げられない事実なのだ。