ある甘い香りを嗅ぐと今でも思い出す、あの15歳の夏休み。

それは、マローのようなバニラのようなプルメリアのようなココナッツのようなムスクのような南国のビーチに漂うなんとも甘い香り。

sunscreen

高校時代、夏休みをマサチューセッツ州の小さな町ブリュースターで過ごしたのだが、トロピカルという言葉が全く似合わないアメリカ北東部避暑地のビーチに漂っていた南国情緒たっぷりのこの香り。未だに、何の香りなのか特定できないのだが、おそらく、このビーチで海水浴やサーフィンを楽しむ人たちがつけている日焼け止めやヘアスプレーの香りが良い具合に潮の香りと混ざりあってできたものなのだろう。夏の太陽に熱せられた湿気に相俟った甘ったるくむせかえるような、それでいてどこか懐かしい香りは、以来、脳裏の片隅に張り付いてしまった。

日本にはあまりないこの香りだが普段は忘れていても、時々、海外の街角で出会うことがある。すれ違い際にふわーっと香りが漂うと、一瞬にしてブリュースターでの楽しかった夏休みにフラッシュバックするのだ。

brewster

先日、友人と会った際、思い出の香りの話に花が咲いた。贔屓にしているブランドから届いたという香水のミニチュアが白い箱に行儀よく10瓶ほど収まったセットの中のひとつが彼女の幼少期のある思い出を呼び起こすという。それは、緑茶の香りをベースにした爽やかな香り。廃盤になって久しいが、まだ中学生だったころ、雑誌で見て欲しくなり、海外旅行にいった祖父に頼んで買ってきてもらったものらしい。人それぞれ、思い出の香りが違うのは興味深い。

memory

フランスの作家のマルセル・プルーストの著書『失われた時を求めて』の中に、主人公がマドレーヌを紅茶に浸すとその香り通して幼年時代の記憶を思い出すという一説がある。
香りは鼻から嗅上皮、嗅細胞、嗅球へと進み大脳辺縁系の順で脳へ伝達される。香りは喜怒哀楽をつかさどる大脳辺縁系に働きかけるため記憶や欲求を呼び起こす作用があるそう。その一連の香りに関するフラッシュバックをプルースト効果と呼ぶそうだ。

話はそれたが、ケープコッドを思い出すあの謎の調香を紐解きたい。