シカゴには何度か訪れたことがある。「好きなアメリカの街リスト」のトップ5に入るだろう。

ボストンからシカゴへ出張。支社の同僚との顔合わせのみの訪問でとんぼ返りだった。朝6時の飛行機で発ち、午後3時の飛行機で戻り、今日は普通に出社する。ジェットセッターになった気分だ。

初めてシカゴの街を見たのは、中学生のごろだった。何気なくレンタルビデオ屋で借りてきた「フェリスはある朝突然に」の舞台がシカゴだったのだ。今はすっかりおじさんになってしまったマシュー・ブロデリック扮するフェリスが彼女と引篭もりの友達を誘って学校をサボり、シカゴの街で遊びまくるという青春ストーリーなのだが、うだうだ言ってるのが馬鹿らしくなるくらい、なんだか見てるこっちまでハッピーな気分になってしまうキュートな映画なのだ。当時、単純だった私はシカゴに行けば、とにかくハッピーになれるのだろうと思っていた。

シカゴを初めて訪れたのは学生時代だった。ある冬休みに大学の寮で知り合ったセントルイス出身の友人の実家に招待されたことがあった。当時通っていた大学は、4期制で他の大学に比べ冬休みが長かった。大学の寮はクリスマスの時期なると帰省する学生が増えるため冬休みの間は閉鎖になり、私のような帰省しない学生は必要な荷物をまとめキッチン付の寮に強制移動させられるという決まりがあった。秋学期の最終日になると、近所のスーパーから攫ってきたらしきショッピングカートが寮の中に散乱し、箱に詰める事もしないで休暇中に必要なものを直積みし、校内の違う寮までカートを押して大移動するのが秋学期最終日の習わしだった。かくいう私もその一人だった。雪深く人気の少ないつまらないキャンパスで毎日過ごすのか、と考えていた矢先、ありがたいことに、暇な冬休みの1週間を友達が実家に招いてくれたのだ。

セントルイスも少し大きめの地方都市で、若者を魅了するエンターテイメント性に欠けるという点では大学のある街とさほど変わらなかった。2日ほど滞在すると街のランドマーク的なものは全て見終え、家の中でテレビを見るという、寮生活とあまり変わらない日々が始まろうとしていた。どういう経緯か忘れたが、ドライブしてシカゴに住む友人のいとこを訪ようという案が持ち上がった。早々に荷造りをし、冬の霧のたちこめるハイウェイを、安物の視界が良くなるフォググラスと呼ばれる胡散くさい黄色いレンズのゴーグルを気休めにかけ、当時流行っていた音楽を大音量でかけ、会話をすることもなく8時間の片道を北上した。

 

たった2日間だけだが、充実したシカゴの旅だった。美術館では映画のワンシーンと同じポーズで写真を撮り、当時はまだ世界一の高さを誇っていたダウンタウンのビルの展望台から霧に巻かれて何も見えない下界を眺め、ギリシャ人街やイタリア人街で食事をし、夜はハウスパーティで浮かれっぱなしのあまりにも短い滞在だった。普段の田舎暮らしとかけ離れた大都市の空気はあまりにも刺激的だった。

今回は空港と会社の往復のみの短かすぎる滞在。数時間の滞在のためにご丁寧に送られてきた日程表に書かれていた唯一のエンターテイメント性のある2つの単語『Special Lunch』ですら、会議室で上司たちに囲まれた味気ない出前のシカゴピザをつつくパワーランチに終わった。しかもとろーりとのびるチーズがウリのシカゴピザなのに、会議の延長で冷めて硬くなり始めていた。

 

次回こそもっとゆっくり滞在したい。